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エマヌエル・バッハの様式にちかい BWV 1052
知られざる作曲家エマヌエル・バッハ (C. P. E. バッハ) を紹介するサイトです.
エマヌエル・バッハの様式にちかい BWV 1052
ChatGPT4o にききました: 「ゼバスチャン・バッハの協奏曲 BWV1052 は鍵盤楽器の音とくに主旋律を強調するために対位法の使用がおさえられているようにおもえます.この様式はエマヌエル・バッハの協奏曲にちかいのではないでしょうか?」
非常に鋭い観察です.バッハ(J. S. バッハ)の協奏曲 BWV 1052(ニ短調,チェンバロ協奏曲)はたしかに,その様式において鍵盤楽器の旋律的・主導的役割を前面に出しており,対位法的なテクスチュアが相対的に抑えられているという点で,息子エマヌエル・バッハ(C. P. E. バッハ)の協奏曲様式に接近しているように見えるのは興味深い視点です.
BWV 1052 の特徴
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協奏的書法:ヴァイオリン協奏曲(BWV 1041–1043)とくらべると,BWV 1052 はリトルネッロ的な反復よりも,ソリスト(チェンバロ)のヴィルトゥオーゾ性と旋律的フレーズの展開に重点を置いています.
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対位法的要素は控えめ:たとえばフーガ風の模倣的な展開は限られ,右手旋律と左手・通奏低音の伴奏的対比が中心となっており,独奏パートの主旋律性が際立つ構成です.
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大胆なハーモニーとドラマティックな性格の第一楽章:これらは,後期バロック的というより多感主義(Empfindsamer Stil)や前古典派的表現に近い傾向を見せています.
C. P. E. バッハの協奏曲(例:Wq. 22,Wq. 24 など)では,
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独奏楽器が中心的な語り手として機能し,オーケストラはそれを支える役割にまわる
- 対位法よりも,感情表出や旋律の変化に富む展開が重視される
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突然の転調や不意の休止,強弱の対比といった表情的ジェスチャーが活発に使われる
という特徴があります.これは BWV 1052 の演奏効果・スタイルと一定の共通性を感じさせます.
歴史的背景の補足
BWV 1052 はもともとヴァイオリン協奏曲として作られた可能性が高く(その断片的な痕跡が残る),後にライプツィヒ時代にチェンバロ協奏曲として改作されたものです.この改作において,
が考えられます.
結論として:
はい,BWV 1052 は,形式的にはバロックの協奏曲構造を持ちながらも,内容的にはエマヌエル・バッハの様式に近接する側面があるといえます.特に,鍵盤独奏の旋律性と主役性の強調,対位法の抑制,劇的で感情豊かな表現といった点で,J. S. バッハから C. P. E. バッハへの様式的橋渡しを感じさせる作品です.
この点は,様式史の観点からも,演奏解釈の観点からも非常に重要なポイントです.
ChatGPT4o にききました: 「BWV1052 は他の作曲家の影響をうけているでしょうか?」
BWV 1052(J. S. バッハのチェンバロ協奏曲 ニ短調)は,その劇的で力強いスタイルからバッハ独自の創作の頂点のひとつと見なされていますが,当時の他の作曲家からの影響をある程度受けていると考えられます.以下に,考えうるいくつかの影響源を挙げます.
1. アントニオ・ヴィヴァルディ(Antonio Vivaldi)
もっとも有力な影響源
- バッハは若い頃(ヴァイマル時代)にヴィヴァルディの協奏曲を写譜・編曲し,そのスタイルを深く研究しています(たとえば BWV 593 はヴィヴァルディの協奏曲の編曲).
- 特に以下の点で影響が見られます:
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三楽章構成(急-緩-急)
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リトルネッロ形式(主題がオーケストラで反復され,独奏との対話を形づくる)
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リズムの明確さとモティーフ主導の構成
- BWV 1052 の第1楽章冒頭の動機は,ヴィヴァルディ的なリトルネッロ・モティーフの典型例といえます.
2. ゲオルク・フィリップ・テレマン(G. P. Telemann)
- バッハと親交があり,ライプツィヒ時代にも多くのテレマン作品が演奏されていました.
- テレマンの協奏曲では,独奏楽器の旋律的魅力を重視し,対位法を抑えた書法が見られることがあり,BWV 1052 にもその影響が感じられる可能性があります.
- 特に,様式の柔軟性・感情的な変化などで共通点があります.
3. イタリア様式全般("Stile italiano")
- バッハはライプツィヒで「イタリア協奏曲(BWV 971)」などを作曲しており,当時のドレスデン宮廷で流行していたイタリア風の書法(旋律の明瞭性,協奏的対話など)に精通していました.
- BWV 1052 でも,バロック後期のイタリア協奏曲様式が活用されていると考えられます.
4. 自身のヴァイオリン協奏曲からの自己引用
- BWV 1052 は,おそらく失われたヴァイオリン協奏曲を原曲として改作されたものであると広く考えられています(たとえば第1楽章や第3楽章のチェンバロ独奏パートは明らかにヴァイオリン向けに思える書法).
- この原曲自体が,ヴィヴァルディ的な協奏曲形式にのっとっていた可能性が高く,自己模倣や自己変奏的発展が含まれています.
5. フランス的要素は少ない
- 同時代のフランスの協奏曲様式(ルクレール,ラモーなど)に比べ,BWV 1052 ははるかにイタリア的であり,舞曲性や装飾性よりも構造的な緊張感や旋律展開が重視されています.
結論
BWV 1052 は,主に以下のような影響を受けています:
影響源 |
内容 |
ヴィヴァルディ |
リトルネッロ形式、三楽章構成、旋律主導の構造 |
イタリア協奏曲様式 |
明確な主題、対話的展開、感情的コントラスト |
自作ヴァイオリン協奏曲 |
原曲の改作としての構造的遺産 |
テレマン |
柔軟な様式運用と旋律重視の感性(部分的に) |
こうした影響を受けながら,バッハは対位法的な厳密さと独奏のヴィルトゥオーゾ性を融合させた独自の様式を確立しており,BWV 1052 は伝統の継承と革新の交差点に位置する傑作です.