知られざるエマヌエル・バッハ (C. P. E. バッハ) を紹介するサイトです.
エマヌエル・バッハの性格的小品集 Wq. 117 と Wq. 118 は,多感様式(Empfindsamer Stil)を代表する鍵盤楽器の小品集です.これらは彼の即興的で感情豊かな作曲技法を示し,短い形式の中に深い感情や繊細なニュアンスを凝縮しています. Wq. 117 は「クラヴィーアのための小品集」(Kleine Stücke für Clavier)として知られ,様々な性格を持つ18曲で構成されています.これらは,メヌエットやポロネーズなどの舞曲形式を含みながらも,表現豊かな旋律や変化に富んだ和声進行が特徴です.演奏時間が短く,親しみやすい曲が多い一方で,装飾音の使い方や調性の扱いにおいて独創的な工夫が凝らされています.
一方,Wq. 118 は「クラヴィーアのための6つのソロ」(Sechs Claviersolo)というタイトルが付けられており,やや長い楽曲が中心です.各曲はバロック的な要素と古典派的な構造が融合しており,特に即興的なパッセージや和声の自由な展開が目立ちます.また,感情表現が多様で,静謐な雰囲気から劇的な場面までが描かれています.
これらの作品集は,エマヌエル・バッハの多様なスタイルを示すとともに,演奏者に高度な表現力と技術を求めます.特に,クラヴィコードで演奏することで,微妙な音量やタッチの変化を生かした繊細な感情表現が可能となります.今日では,これらの作品はバロックと古典派をつなぐ重要なレパートリーとして注目されています.
クープラン自身も1713年に出版された「クラヴサン曲集」の序文で,次のように述べています.「私はこれらの小品すべてにおいて目的を持って作曲しました.それぞれのタイトルは私が抱いたアイデアに対応しています.しかしながら,これらのタイトルには私自身を喜ばせるものもあり,それらがどれも私の愛らしいオリジナルに忠実であると表現する意図があります.」
エマヌエル・バッハもフランスの「性格的小品」に強い関心を持ち,1754年から1758年にかけて,鍵盤楽器のために27のタイトル付き小品を作曲しました.これらの小品は,当時ヨーロッパ中に広まっていたクープランの伝統を模倣したもので,個々の曲には特定の「愛らしいオリジナル」に基づくタイトルが与えられています.彼の作品のうちいくつかには,クープランやジャン・フランソワ・ダンドリュー(1682-1738)の影響が明らかです.
また,エマヌエル・バッハの性格的小品の中でも特に興味深いのは,「La Xenophon et la Sibylle」(H. 123 Wq. 117/29)です.この曲は,18世紀中頃の鍵盤楽器の異なる調律に由来する可能性があり,その響きはより親しみやすいホ長調に適応されました.