知られざるエマヌエル・バッハ (C. P. E. バッハ) を紹介するサイトです.
エマヌエル・バッハの鍵盤協奏曲 Wq. 9(H. 412)は,1741 年に作曲された作品で,彼の初期の鍵盤協奏曲の中でも特に洗練された一曲です.この協奏曲は,北ドイツ様式を基盤としながらも,ガラント様式や多感様式の特徴を積極的に取り入れています.ソロ鍵盤楽器と弦楽(2 本のヴァイオリン,ヴィオラ,バス)の編成は伝統的ですが,楽曲の内容は革新性に富んでいます.
第 1 楽章では,明快な主題と対位法的な展開が融合し,構造の堅実さが際立っています.ソナタ形式を基本にしつつ,リトルネロ形式の要素を含み,独奏楽器とオーケストラの掛け合いが特徴的です.第 2 楽章は,多感様式に基づく内省的で情感豊かな旋律が中心で,深い感情表現が特徴です.第 3 楽章では,ロンド形式の舞曲的なリズムと軽快な音楽が展開され,ガラント様式のエレガントさが表現されています.
この作品は,ソロと弦楽のトゥッティの調和が非常に巧みに描かれ,エマヌエル・バッハの作曲技法の進化が感じられます.Wq. 9 は,初期作品ながらも後年の自由な形式感と表現力の豊かさへの道筋を示す重要な協奏曲です.