知られざるエマヌエル・バッハ (C. P. E. バッハ) を紹介するサイトです.
エマヌエル・バッハの鍵盤協奏曲 Wq. 11(H. 414)は,1743 年に作曲された作品で,彼のベルリン時代の初期における鍵盤協奏曲の中でも,特に独自性と表現力が際立っています.この協奏曲は,ソロ鍵盤楽器と弦楽(ヴァイオリン 2 本,ヴィオラ,バス)の編成を用い,伝統的な協奏曲形式を基盤としながらも,新しい様式を積極的に取り入れています.
第 1 楽章は,派手な金管や打楽器が使用される華やかな序奏で始まり,続くソロパートでは技巧的なフレーズが展開されます.第 2 楽章は,深い感情を伴う抒情的な旋律が中心で,多感様式の特徴が顕著です.第 3 楽章では,軽快で舞曲的な性格を持つ音楽が展開され,ガラント様式の優美さが表現されています.
この協奏曲では,ソロと[管]弦楽のトゥッティが絶妙なバランスを保ちながらも,ソロパートが自由で独創的に展開される点が特徴です.特に第 1 楽章での派手な編曲は,エマヌエル・バッハの革新性を示すものであり,Wq. 11 は彼の鍵盤協奏曲の中でも特に魅力的で多彩な作品といえます.
1742年と1744年にエマヌエル・バッハが出版した2冊の鍵盤楽器ソナタ集は,高度な技術と音楽的理解を持つ真剣なアマチュアを対象にしており,好評を博しました.この成功は,エマヌエルが1746年に弦楽器伴奏付きの鍵盤楽器協奏曲(H. 414/Wq. 11)の出版を決断するきっかけとなりました.この協奏曲も一定の成功を収め,1750年代半ばにはエマヌエル・バッハの名声が大いに高まります.ロンドンの音楽出版社ジョン・ウォルシュがこの協奏曲や他の作品(H. 417/Wq. 14 など)を海賊版として出版したことは,当時の著作権法が存在しない環境での名声の証拠といえます.
H. 414/Wq. 11 や H. 417/Wq. 14 の第3楽章は,軽快な舞曲のリズムと弦楽器と鍵盤楽器の素早い掛け合いにより,生き生きとしたフィナーレを形成しています.一方,これらの作品の第1楽章はそれぞれ独特の進行を持ちます.トゥッティの冒頭リトルネロが活気に満ち,繰り返しが多い中で,独奏部分は個性的で繊細な性質を示し,トゥッティとはっきり異なるキャラクターを持っています.このように,これらの作品は当時の音楽的トレンドを超えた独自性を示し,エマヌエル・バッハの革新性と表現力を物語っています.