知られざる作曲家エマヌエル・バッハ (C. P. E. バッハ) を紹介するサイトです.
エマヌエル・バッハの フルート協奏曲 ニ短調 Wq. 22-1 (H. 484-1) は,彼の協奏曲のなかでも特に劇的な表現と感情の起伏が際立つ作品です.短調の調性を活かしながら,激しさと繊細さを巧みに対比させた構成になっています.
第 1 楽章 Allegro は,緊張感のある序奏で始まり,オーケストラとフルートの対話が劇的に展開されます.リトルネロ形式を基盤としつつ,エマヌエル・バッハらしい予測不能な転調やダイナミックな和声進行が特徴的です.フルートは急速なパッセージと表情豊かな旋律を交互に奏で,音楽に高いエネルギーをもたらします.
第 2 楽章 Un poco andante は,静かで瞑想的な雰囲気を持ち,多感様式の特徴が強く表れています.フルートは歌うような旋律を奏で,オーケストラの控えめな伴奏と美しく調和します.この楽章では,微細なニュアンスや装飾音が重要な役割を果たし,感情のこもった表現が求められます.
第 3 楽章 Allegro di molto は,生き生きとしたリズムと活気に満ちた旋律が特徴のフィナーレです.フルートの技巧的なパッセージが際立ち,オーケストラとの緊密なやりとりが楽曲全体に推進力を与えます.この楽章では,軽快なテンポと急速な音形が多用され,エネルギッシュな印象を強めています.
この協奏曲は,エマヌエル・バッハの協奏曲のなかでも特にドラマティックな作品であり,短調の陰影と多感様式の繊細な表現が見事に融合しています.フルートの美しさと技巧が際立つこの曲は,演奏者にとっても表現力を存分に発揮できる魅力的なレパートリーと言えるでしょう.
ニ短調協奏曲 H. 425/Wq. 22(1747年作曲)は,同じ調性で作られたフルート版の鍵盤版であり,フルート版が鍵盤版に先立って作られた可能性が高い.最近の原稿研究により,フルート版が原曲であることを示す説得力のある証拠が示されている.フルートとオーケストラのための作品は王室のフルート奏者の演奏を期待して書かれた可能性があるが,別の演奏者のためであった可能性も同様に高い.フルート協奏曲を作曲した後,バッハは自身の演奏活動のために鍵盤版を作ったと考えられる.この鍵盤版は,1740年代中期の他の協奏曲と比較して控えめであり,独奏楽器の伴奏として弦楽器が絶え間なく使用されている点が特徴的である.