知られざる作曲家エマヌエル・バッハ (C. P. E. バッハ) を紹介するサイトです.
エマヌエル・バッハの フルート協奏曲 イ長調 Wq. 168 (H. 438) は,彼のベルリン時代に作曲されたと考えられています.この曲は,明るく輝かしいイ長調の響きを活かしながらも,第 2 楽章では多感様式の影響を色濃く反映した表情豊かな楽曲となっています.
第 1 楽章 Allegro は,華やかな主題で始まり,オーケストラとフルートが活発な掛け合いを展開します.リトルネロ形式に基づき,フルートは流麗な旋律と技巧的なパッセージを交えながら,オーケストラのエネルギッシュな伴奏と対話を繰り広げます.調性の変化も巧みに取り入れられており,活気のある推進力を持った楽章です.
第 2 楽章 Largo con sordine, mesto は,弦楽器に弱音器をつけた柔らかな響きのなかで,フルートが深い感情を表現する楽章です.「mesto (悲しげに)」という指示が示すように,哀愁を帯びた旋律が特徴的で,エマヌエル・バッハらしい多感様式の影響が感じられます.和声の動きも豊かで,暗く沈んだ表現から次第に希望の兆しが見えるような構成になっています.
第 3 楽章 Allegro assai は,生き生きとした主題で始まり,ロンド形式に近い形で進行します.フルートは軽快な音型を用いてオーケストラと対話し,華やかな技巧を披露します.楽章全体を通して,リズムの躍動感が強調され,フィナーレとして相応しい勢いのある楽章になっています.
この協奏曲は,エマヌエル・バッハのフルート作品のなかでも,特に表現の幅が広く,劇的な構成が魅力的です.フルートの抒情的な側面と技巧的な側面の両方がバランスよく取り入れられており,彼の協奏曲のなかでも独自の個性を持つ作品となっています.