知られざるエマヌエル・バッハ (C. P. E. バッハ) を紹介するサイトです.
マヌエル・バッハの鍵盤協奏曲 ヘ長調 Wq. 42 (H. 470) は,1770年ごろに作曲された作品で,古典派への移行を感じさせるスタイルとエマヌエル・バッハ特有の多感様式が融合しています.第1楽章はエネルギッシュで明快な主題で始まり,鍵盤楽器とオーケストラの躍動感ある対話が展開されます.独奏部分では,華麗な技巧とリズミカルな展開が聴きどころです.第2楽章は穏やかで優雅な緩徐楽章で,詩的な旋律と和声の繊細な表現が特徴です.鍵盤楽器が歌うような旋律を奏で,静謐で内省的な雰囲気が広がります.この楽章は,エマヌエル・バッハの感情表現の深さを感じさせます.第3楽章は軽快でリズミカルなフィナーレとして構成されており,独奏楽器のヴィルトゥオーゾ的な演奏が目立ちます.軽やかなリズムと明るい旋律が曲全体をまとめ,聴き手を魅了します.この協奏曲は,エマヌエル・バッハの成熟した作曲技術を示すとともに,鍵盤楽器の表現力を巧みに活用した作品です.
[Wq 41 とくらべると,]ヘ長調協奏曲 Wq 42 (H470)は,より伝統的な形式に従い,より保守的な音楽言語を使用した作品です.
「ヘ長調協奏曲 (Wq 42)」は,同時期に作曲された「変ホ長調協奏曲 (Wq 41)」とは大きく異なる性格を持つ作品です.この協奏曲はおそらく,バッハのベルリン時代に無伴奏鍵盤楽器のための協奏曲として構想されましたが,ハンブルク移住後に弦楽器とホルンの伴奏を加える形で編曲されました.このことは,バッハがハンブルクでの公開演奏会に積極的に参加していたことを示唆しています.
特に第1楽章のスタイルは,大人数の演奏者による広い部屋での演奏に適しており,当時の新しい公共演奏会の特徴を反映しています.このような演奏会では,プロの音楽家に加えてアマチュアも参加していましたが,1740年代から1750年代のバッハのガラント様式作品に見られる急速に変化するリズムやテクスチャーは,アマチュアにとっては扱いが難しかったと考えられます.
一方,この作品の冒頭素材におけるゆったりとした和声の変化と繰り返される図形的なパターンは,演奏環境において非常に効果的であることが指摘されています.バッハの初期の協奏曲を知るリスナーにとっても,この作品は理解しやすく魅力的なものとして映るでしょう.
この「ヘ長調協奏曲」は,同時期の他の協奏曲だけでなく,最後の協奏曲とも異なる独自性を持っています.