トップ > C.P.E.バッハの出版などの事業 > クラヴィーア奏法の本
知られざるエマヌエル・バッハ (C. P. E. バッハ) を紹介するサイトです．
正しいクラヴィーア奏法についての試論の本
エマヌエル・バッハが出版したこの本は現在，日本でも出版されています (右の写真)．
『正しいクラヴィーア奏法についての試論』(Versuch über die wahre Art das Clavier zu spielen) は，カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ (C. P. E. Bach) が 1753 年と 1762 年に 2 巻で出版した鍵盤楽器演奏の教則本です．18 世紀後半の音楽教育や演奏技術に大きな影響を与えたこの書籍には，演奏技術や音楽表現に関する実践的な解説に加え，具体的な練習例や鍵盤楽器作品が含まれています．
記述内容の特徴
1．演奏技術
鍵盤楽器演奏の基礎から高度な技術まで，指使い，タッチ，音色のコントロールに関する詳細な解説があります．
2．装飾音の使用法
トリル，モルデント，アッポジャトゥーラなどの装飾音について，その実践的な演奏法を細かく解説しています．
3．音楽表現
感情の多様性を表現するための即興演奏やダイナミクスの活用法が記されています．これにより，感情豊かな演奏が可能となります．
4．楽譜の解釈
楽譜に記された情報をどのように読み取り，演奏に反映させるかを示し，演奏者の自由な解釈も奨励しています．
5．練習方法
初心者から上級者まで，各段階に応じた練習法や学習手順が提案されています．
含まれている作品
『試論』には，エマヌエル・バッハの鍵盤楽器作品が収録され，具体的な演奏例として提示されています．これらの作品は，当時の鍵盤楽器演奏技術や多感様式を理解するために重要です．
1．第 1 巻 (1753 年) に収録されたソナタの例
-
ソナタ イ短調 Wq. 63/5 (H. 30)
-
ソナタ ハ短調 Wq. 63/6 (H. 31)
これらのソナタは，ギャラント様式と多感様式の要素が融合した作品であり，装飾音やダイナミクスの用法が具体例として示されています．
音楽史における意義
1．教育的影響
この書籍は，18 世紀後半の鍵盤楽器教育における標準的な教科書となり，多くの演奏家や作曲家が学びました．
2．演奏慣習の記録
18 世紀中期の演奏慣習や装飾音の使い方，鍵盤楽器の技術的発展についての詳細な記録が含まれています．
3．後世の作曲家への影響
モーツァルト，ハイドン，ベートーヴェンをはじめ，この書籍を学んだ作曲家は，エマヌエル・バッハの演奏哲学や技術を取り入れました．
結論
『正しいクラヴィーア奏法についての試論』は，エマヌエル・バッハが提唱する演奏技術と音楽哲学を具体的に示した画期的な教則本です．その中に収録された作品（例：Wq. 63/5, Wq. 63/6）は，当時の鍵盤楽器音楽の多感様式を学ぶための貴重な資料となっています．この書籍は，鍵盤楽器音楽の進化と 18 世紀音楽文化の深い理解を提供する重要な文献です．