知られざるエマヌエル・バッハ (C. P. E. バッハ) を紹介するサイトです．
エマヌエル・バッハの鍵盤協奏曲 Wq. 45 (H. 478) ニ長調は 1777年に作曲された作品で，彼の後期の協奏曲に位置づけられます．この作品は，明るく軽やかな性格を持ちながら，洗練された形式と多感様式 (Empfindsamer Stil) の細やかな表現が調和した一曲です．第1楽章は穏やかで親しみやすい主題で開始され，バランスの取れたソナタ形式が特徴です．独奏楽器とオーケストラが緊密に対話し，和声的な明快さとリズミカルな動きが際立っています．第2楽章は穏やかで優美な楽章で，叙情的な旋律が中心となります．エマヌエル・バッハ特有の感情の深さと内省的な音楽表現が明瞭に現れています．第3楽章は，快活で軽快なフィナーレで，リトルネロ形式が採用されています．テンポ感のある楽想と技巧的な鍵盤楽器の独奏部分が全体を盛り上げ，明るい締めくくりとなっています．この協奏曲は，チェンバロや初期のフォルテピアノで演奏可能な設計となっており，当時の楽器の変遷を反映しています．明るいニ長調の調性と多様な表現が，エマヌエル・バッハの成熟した作曲技法を示す優れた例です．
バッハの最後の協奏曲（チェンバロとフォルテピアノの両方のための作品で，10年後に書かれたものと思われる）に比べると，Wq 43 の作品で見られる極端な革新性はほとんど見られません．すべての楽章は，伝統的なリトルネロ形式に基づき，変則的な部分は少なく，楽章間の調の関係も完全に従来の規則に従っています．ただし，ソロとオーケストラの音色の交替は，必ずしもその形式の慣習に完全には一致していません．
これらの作品はまた，第2楽章と第3楽章の間のギャップを埋めようとするバッハの意図を示しています．緩徐楽章が最終楽章の効果を強める役割を果たしているのです．例えば，ニ長調の協奏曲（Wq 45）では，緩徐楽章は突然の2小節間の終結部分で終わり，それが次の楽章を始めるための最小限の終止を提供します．一方，Wq 44 では，第2楽章の終結がさらに斬新で，さまよい，転調を伴う終結部分が書かれたディミヌエンドとピアニッシモの半終止で締めくくられます．
Wq 44とWq 45の対比
同じ年に作曲されたこれらの2つの協奏曲は，性格が著しく異なり，新しい作品ごとに独自の個性を追求するバッハの意欲を示しています．Wq 44は，第3楽章のロンド形式への強い参照に見られるように，完全に「ギャラント」なスタイルです．一方，Wq 45は，シンコペーションやロンバルドリズム，女性的な句末のような装飾的要素がなく，非常に直接的で明快です．
演奏例: